2016/01/31 up!
不妊鍼灸~その理論と根拠~
第一回では「妊活と鍼灸は仲が良い!」と題して、鍼灸治療が自律神経と血流に影響を及ぼすことを簡単にご説明いたしました。 今回はもう少し細かく鍼灸治療の効果を、自律神経への影響を中心に解説して参ります。
自律神経とは?
鍼灸治療の効果を説明する前に、自律神経についてご説明しましょう。
交感神経と副交感神経という逆の働きをもつペアで構成されている自律神経は、私たちの体を、あらゆるシーンで 正常な状態に保ってくれています。 例えば、あなたが「肘の関節を曲げたい」と考えた時、腕の筋肉が収縮して関節が屈曲し ます。これは大脳の指令が神経を伝わり筋肉を刺激したことで肘が曲がるわけです。この様に 自分の意志によって起こる運動を随意運動と呼びます。
一方、心臓の動きを考えてみましょう。100m を全力疾走した直後の心臓は早く鼓動し、休憩中はゆっくり動きます。心臓は 24時間動き続けていますが自分の意志で早くしたり遅くしたりできるわけではありません。このように自分の意志とは無関係な内臓の動きを不随意運動と呼び、それを調整しているのが自律神経なのです。また他にも自律神経は、体温調節や血流など 様々な不随意的な調節機能、さらにはホルモン分泌や免疫力にまで密接に関係しているのです。 これらの複雑な調整を、前に書いたペアが互いにバランスをとって、コントロールしているのです。
自律神経に対する鍼灸治療の効果
そこで、調子を崩した自律神経を整えるために有効なのが鍼灸治療です!鍼灸治療が自律神経に影響を及ぼすことは沢山の研究で既に明らかにされています。例えば胃の運動や胃酸分泌、 腸の運動、血圧や心拍数などに様々な効果が報告されています。
(参考文献:鍼灸臨床最新科学、メカニズムとエビデンス、医歯薬出版、矢野忠・川喜田健司編集)
妊娠と自律神経の関係
もちろん骨盤内臓器も自律神経の影響を強く受けますから、子宮や卵巣に分布する血管も自律神経によって調節されています。つまり、自律神経が不調を起こすと妊娠に重要なこれらの 臓器の動きや血流、ホルモンの分泌、免疫のバランスに不具合が生じてしまうのです。
それを裏付ける研究結果があります。自律神経の調子を崩すようにストレスを加えたラットの卵巣から分泌されるエストロゲンを測定したところ減少が認められ、ストレスにより卵巣機能が低下することが明らかにされています。
そしてそれを改善するために、鍼通電刺激が自律神経を介して卵巣の血流を増加させることを証明した研究もあります! Stener氏は多嚢胞性卵巣のモデルラットを用いて、鍼通電刺激が卵巣血流量に及ぼす影響も研究しており、鍼通電刺激は自律神経の交感神経を通じて卵巣血流に影響を与えていることを明らかにしています。
(Stener-Victorin E, Fujisawa S, Kurosawa M, Ovarian blood flow responses to electroacupuncture stimulation depends on estrous cycle, and on site and frequency of stimulation in anesthetized rats. J Appl Physiol 101:84-91, Equb Mar 2)
このようにストレスなどによって機能が低下した卵巣に鍼灸が有効に働くと、その状態を改善すると考えられるのです
不妊鍼灸の科学的根拠
私たち不妊鍼灸ネットワークは「科学的な根拠」を大切にしています。医療の世界では、治療効果を証明するためには臨床研究を行って、その成績がどのくらいなのか評価する必要があります。不妊に対する鍼灸の効果を研究した論文を文献検索サイトで調べてみると、70 件以上の質の高い論文を見つけることができます。その中で今回のコラムでご紹介したような自律神経を介した子宮・卵巣に対する効果が認められているのです。また鍼灸治療は不安や抑うつ症状を軽減する効果も報告されているんですよ!私たちの治療院のデータでも子宮や卵巣の機能が改善したり、抑うつ症状が軽減しています。
鍼灸の科学的な効果についていかがでしたか? 鍼灸治療は摩訶不思議で胡散臭いものだと思われがちですが、現在では人体に及ぼす様々な作用が科学的に証明されてきております。子宮や卵巣に作用する鍼灸治療ですが、大切なのは血流を改善するために、一定の手法を学んでいるかどうかということです。あなたの妊活に鍼灸を有効にお役立てください。
今回は自律神経を中心にお話しいたしました。 次回は「鍼灸で卵巣・子宮の血流を改善しよう!」と題して、今回お話しした理論が実際には どんな効果を出せるのか、お話ししたいと思います。 お楽しみに!