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ストレスが妊活に与える影響とその対処法

妊活はストレスか?

妊活や治療を受けているときは、“妊娠したくてもうまくいかない状況”です。自分がなりたいと思っている状態になれないことは、大きなストレスとも言えます。そして月経がくるたびに、繰り返し不安を感じ続けているのです。

また、通院している人は、その時間を確保するための仕事の調整に大変な労力が必要になります。体外受精にステップアップするとなれば、受けたことがない治療への不安や高額な金銭面での負担など様々なストレスにさらされることにもなります。このように、日常的に治療によるストレスを受け続けている訳ですから身体に何らかの影響がでてもおかしくないわけです。その影響を受けやすいところが自律神経系です。

ストレスをうけるとどうなるか?

自律神経系が影響を受けると生体の恒常性が乱れる、つまり自動的にコントロールされていた部分に様々なトラブルが生じます。例えば、動悸、めまい、食欲不振、下痢、便秘、睡眠障害、頭痛、過呼吸、抑うつ状態などなど・・・。

さらに、このような症状を自覚していなくても身体の中では影響を受けている可能性もあります。

以前のコラム「鍼灸で卵巣・子宮の血流を改善しよう!」でご紹介したように、自律神経系の交感神経は血管(動脈)の平滑筋に作用して血管の太さをコントロールしています。ストレスにより交感神経が必要以上に刺激され続けることは血管を収縮させてしまうため、生殖器系の血流を低下させてしまうと考えられます。

鍼灸治療はストレスを軽減する

さて、ストレスが良くないことは言われなくても良く分かっていると思われるかもしれません。そこで、重要なのはストレスに対してどの様に対処していけば良いのか? ということですよね。そこで鍼灸治療の出番です!

まず、鍼治療をうつ病の治療に応用したことで通常の治療よりもうつ病の程度が軽減したという論文をご紹介します。

(Acupuncture and Counselling for Depression in Primary Care : A Randomised Controlled Trial. PLoS Med. 2013;10(9):e1001518. impact factor of 14.429 )

この論文では755名のうつ病の患者様を対象に臨床試験を実施しました。患者様を治療の方法別に3つのグループに分けました。

「ストレス」を知ろう

そもそもストレスって何?

第2回目のコラム「不妊鍼灸~その理論と根拠~」で自律神経についてご説明したとおり、私たちの体は、自動的に身体の中の環境を保つように無意識ですが頑張っています。このことを専門的には「生体の恒常性を維持している」と言います。

例えば、寒い所にいると鳥肌が立ちガタガタと体が震えます。これは無意識に体を温めようと自動的に体が反応している証拠です。
このように身体に反応を起こした原因をストレッサーと言い、起こった現象をストレス反応と言います。例えの場合「寒さ」がストレッサーで「鳥肌」や「震え」がストレス反応ですね。

ストレスは「悪いモノ」というイメージが強いですが、適度なストレスのおかげで、私たちの身体は反応を起こすことができるのです。
つまり、私たちが目標に向かって努力したり、やる気が刺激されたりするのは、ストレスのおかげもあるというわけです。

「ストレス」という言葉の生みの親であるカナダの生理学者のハンス・セリエ(1907-1982)は「ストレスは人生のスパイス」という言葉を残しています。適量であれば様々なスパイスを味わうことで料理に深みがでます。過剰になれば料理全体を壊してしまいます。まさに身体に対するストレス反応を見事に言い表した言葉だと思います。

ストレス反応には個人差がある

同じくらいのストレッサーの刺激を受けても、人によりストレス反応には差があります。人はそれぞれストレスの受け止め方が違います。過去の経験によって対処法が身についていればストレスに対しての心構えも違いますよね。

例えば、妊活治療中の注射をストレッサーとして考えてみましょう。注射が嫌いな人にとってはとても辛いストレスですが、注射の痛みをそれほど苦痛に感じない人にとって注射はそもそもストレスにはならないのです。また、繰り返し注射を経験することにより注射の痛みは直ぐに収まることを理解すると、初めての注射で「この痛みはいつまで続くのかしら?(T_T)」という不安を抱えている状態よりもストレスの程度は低いものとなります。

つまり、ストレスというのは受け止め方やその後の対処方法によってある程度コントロールできるものだと捉えることができます。
この受け止め方のことを「認知的評価」と言い、対処方法のことを「ストレス・コーピング」と言います。
皆さんの周りにも「あの人、凄くメンタル強いなぁ〜」っていう方がいませんか?もしかしたら認知的評価とストレス・コーピングが上手なのかもしれませんね。でも、このように理屈で理解できても上手く対処できないのがストレスの厄介なところですよね。

ストレスについてのお話は長くなってしまいますので、次回のコラムで妊活とストレスについて続きをお話させていただきますね。

鍼灸で卵巣・子宮の血流を改善しよう!その3

卵子も栄養補給をしている

その前に、卵子について少しお話します。
卵子は約120日(もっと長期であるとの説もある)かけて排卵の準備をしていくのですが、その際に徐々に体積を増しつつ、栄養補給をしています。
ということは、卵子の質を少しでも良くするためには、当然の事ながら卵巣の血流が少しでも良くなれば、良い結果に結びつきやすくなります。

卵子には、主に二つの栄養補給の仕方があり、「ピノサイトーシス」と「ギャップジャンクション」と呼ばれています。

ピノサイトーシスとは
ピノサイトーシスは多くの細胞が備えている方法で、飲作用と言われています。
卵巣に分布する微小血管から漏出した血漿成分を、卵子の表面がくぼんでそこに取り込み、卵子内部で分解し栄養とする方法です。

ギャップジャンクションとは
もう一つは、卵子と接触している顆粒膜細胞との間での栄養のやり取りです。両者の細胞の接着(細胞接合と言います)はギャップジャンクションという形態を採っていて、分子量千以下の物質を能動輸送します。ブドウ糖やアミノ酸などの分子量は千以下ですので、こういったものが効率よく供給されているようです。

これらのどちらに対しても、卵巣への血流改善が大きく影響すると考えられます。卵子への栄養供給が、実際にどれほどの効果を及ぼすか、今後の検証結果が待たれます。

さて、体外受精の経験のある方はわかると思いますが、精子と受精させても胚盤胞に進まず、卵割がすぐに停止してしまう場合が多々あります。これは、一つは卵子の栄養不足も原因であろうと推測されます。もちろん、卵割を制御する染色体に異常があれば停止しますが、そればかりでは無いようです。卵子内のミクロ的な観察は難しいとしても、胚盤胞に到達する率が有意に上昇している事は私達も後方視的に観察を行い、その十分な有意差を確認しました。

しかし問題は、前にも述べたように「鍼灸が良い」のではなく「正しい方法を用いた鍼灸が効果を及ぼす」わけで、その正しい理解を、鍼灸師も一般の方にも期待しています。

血流改善に有効な刺激とは

卵巣への血流量の変化を、ラットを使って証明した実験があります。

ラットの様々な部位に鍼を刺入し電気刺激を与えたところ、刺激部位、刺激の強さ、頻度で卵巣血流量の効果に差が生じました。
もっとも有効であった場所は、下肢(足関節内側付近と大腿二頭筋付近、つまり足首付近と腿の裏側についている筋肉付近です。)と腹壁でした。この二つへの鍼通電刺激が一定の強さと頻度で行われた時に、卵巣の血流量が増すことが証明されたのです。

この作用機序は「体性自律神経反射」というシステムで説明されます。皮膚上のポイントに刺激を与えると、その皮膚に分布している皮神経が入る脊髄分節が卵巣に分布している神経と同じレベルの脊髄分節である場合、その刺激が脊髄の中で信号を伝達して影響を及ぼし合うというものです。

交感神経ブロックと副交感神経への刺激の結果は?

​さて、卵巣には交感神経と副交感神経が分布しています。先ほど述べた実験前に交感神経をブロック(刺激伝達を遮断)すると、卵巣への血流量はブロックしていない場合に比べて飛躍的に向上しました。そこで私たちは、”星状神経節”という喉の交感神経節にレーザーを照射して、薬剤による交感神経ブロックに似た状態を作り出してから鍼治療を行い、それを約3ヶ月間定期的に反復することを試みました。
結果、胚盤胞にまで卵割が進む割合が有意に増えている事を確認したのです。


最後によく誤解されている事をはっきりさせたいと思います。

卵巣は腹壁から深さ8センチにあり、表面を多少温めても卵巣動脈の有意な拡張を起こすのは不可能です。少しお腹を温める程度では、リラックス効果以上のものは期待できないでしょう。

今まで、鍼灸が自律神経を介して、どのように卵巣や子宮に影響をおよぼすのか、その方法はどんなものなのかをお話してきました。
次回は、妊活でストレスを浴びたり、うつ傾向に陥ったりした時に、鍼灸がどのように有効に作用するかを、科学的にお話したいと思います。

鍼灸で卵巣・子宮の血流を改善しよう!その2

大切なのは「リラックス」に繋がること

前回までのコラムで自律神経系(交感神経と副交感神経)の調整機能が卵巣・子宮の血流に大きく影響していることはお分かりいただけたかと思います。自律神経系(特に交感神経)はストレスの影響を受けやすいのです。その反応が血管を収縮させることにより、卵巣・子宮の血流を悪化させ機能低下に繋がると考えられます。ですから、まずお伝えしたいのは「鍼灸治療もストレスになってはいけない」ということです。

妊活のために専門の病院に通院中であれば様々なストレスを抱えていることは容易に想像できます。まずは鍼灸治療がリラックスに繋がることがとても大切です。今から解説する内容は全てその前提の上でのことだとご理解ください。

少しでも効果を高められる方法の模索

それでは、私たちが積み重ねてきたデータを用いて具体的な方法をご説明していきます。
私たちの鍼灸院で妊娠を希望する患者様を診させていただくようになったのは30年以上前に遡ります。妊娠しやすい体づくりをコツコツとお手伝いしていた際、ドクターと一緒に共同研究するチャンスをいただきました。その結果が新聞に掲載され注目を集めるきっかけとなったのが2001年12月です。(図1

効果が明らかになった仙骨部へのアプローチ

私たちは、新聞に掲載された研究を代表として「鍼灸治療は子宮内の着床環境になんらかの影響を与えている」と考えていましたので、この新しい治療法もおそらく子宮周囲の循環、特に動脈血流に影響していると考え、新たにドクターと共同研究を行いました。そして、その効果を検証し2006年の日本生殖医学会にて発表いたしました。その検証方法は、次のとおりです。

 

 

  • 過去に2回胚移植を行ったものの妊娠していない患者9名を対象とする

  • 初回の鍼治療を行う前に「子宮動脈の血管抵抗値(RI値)」を測定、その後、“中りょう穴刺鍼”だけの鍼治療を平均8回行い、その後再びRI値を測定

 

その結果、約9割の人の子宮動脈のRI値が下がったのです。RI値とは血管抵抗値(血流の流れ難さの指標)ですから、RI値が有意に下がったということは鍼治療によって血液が流れやすくなったと考えられます。(図3) このことから、“中りょう穴刺鍼”が子宮動脈の血流改善に関与したことが明らかとなったのです。


参考文献

1)過活動膀胱に対する鍼治療の有用性に関する検討
北小路博司、日泌尿会誌、86、1514−1519、1999

2)覚醒化ラットの膀胱機能に対する仙骨部鍼刺激の効果
杉本佳史、明治鍼灸医学、41、29−39、2007

3)酢酸誘発頻尿モデルラットに対する仙骨部鍼刺激の頻尿抑制効果
日野こころ、明治国際医療大学誌2号、25−32、2009

4)Effects of acupuncture for chronic pelvic pain syndrome with intrapelvic venous congestion: Preliminary results
HISASHI HONJO、International Journal of Urology、11、607–612、2004

鍼灸で卵巣・子宮の血流を改善しよう!

血管には栄養を届ける大切な役割がある

想像してみてください。60兆個の細胞全てに栄養を十分に行き渡らせることを。
血管は総延長10万キロメートルの長さで細胞すべてに栄養を届けています。しかし細胞には、栄養を沢山必要とするもの(新陳代謝が盛んであったり、細胞分裂を活発に行なったりしている)もあれば、自らが細々と働くだけの栄養さえあれば良いものまでいろいろです。そして、ヒトを含めたあらゆる生物は、種の保存と繁栄をもっとも大切な使命としてプログラムされていますので、当然、生殖器系には多くの養分が必要ということになります。

自律神経と血管の関係

急激に大きなストレスがかかると心臓がドキドキしたり、顔が青白くなったり、手足が冷たくなったり震えたり。これは誰しも経験することですし、たいていすぐさま現れます。これは自律神経と血管の関係によるものです。
血管は血液を隅々まで行き渡らせる”輸送管”の役割を担っていますが、実はそれ自体が「収縮と弛緩」を行っています。少し専門的な話になりますが、特に中小動脈におけるトーヌス(血液を輸送するための緊張状態)という状態が大切な役割を担っています。それを作り出しているのが血管を構成する数種の細胞や組織であり、中でも「血管平滑筋」は自律神経による影響を大きく受けています。つまり、もしそこに過緊張状態が起これば、血管は収縮し、その先の組織に血流や栄養不足を起こすというわけです。
ですから、鍼灸が正しく有効に作用するなら、血管は拡張するはずですね。

卵巣や子宮と冷えの関係

よく、冷え性だと妊娠しにくいと言いますが、確かに交感神経が過剰に優位だと、血管が収縮しやすく手足が冷たくなりやすいと言えます。しかし手足やお腹の表面が冷たいことと、子宮や卵巣の冷えや血流不足はイコールではありません。

深部体温は常にホメオスタシス(恒常性)で37度程度に保たれています。例えば子宮のすぐ前には膀胱がありますが、尿が冷たい人などいないでしょう。また卵巣はお腹の表面からから深さ約8センチにあり、それを外部から温めることは容易ではないかわりに、外気の影響を受けにくいと言えます。更に女性の体は思春期を過ぎると、皮下脂肪を貯めこみます。それが断熱材の役割を果たし、生殖器系が外気温の影響を更に受けにくくします。お腹の表面が冷たいからといっても、熱湯の入ったポットの表面が冷たいように、断熱が機能すると表面は熱くならないのです。

自律神経への働きかけ

では子宮や卵巣に分布する血流を増やすためには、どのように自律神経に働きかければ良いのでしょうか。
大きく2つの方法があります。ひとつは全身的な方法、もう一つは局所的な方法です。

●全身的な方法
心身をリラックス(副交感神経が優位)させることにより末梢の血液循環を改善する方法です。これについては、鍼灸にはいろいろな考え方があり、どれが最も良いとは言えません。要は施術を受けた方が体感して頂けたらと思います。

●局所的な方法
卵巣や子宮の血流を更に確実に良くするための具体的な方法として、局所的な方法をご紹介します。体表から8センチの深さを温めることは困難ですが、局所的な血流を増加させる方法はあります。現在すでにいくつかの手技手法が確立しています。

例)

不妊鍼灸~その理論と根拠~

自律神経とは?

鍼灸治療の効果を説明する前に、自律神経についてご説明しましょう。
交感神経と副交感神経という逆の働きをもつペアで構成されている自律神経は、私たちの体を、あらゆるシーンで 正常な状態に保ってくれています。  例えば、あなたが「肘の関節を曲げたい」と考えた時、腕の筋肉が収縮して関節が屈曲し ます。これは大脳の指令が神経を伝わり筋肉を刺激したことで肘が曲がるわけです。この様に 自分の意志によって起こる運動を随意運動と呼びます。

自律神経に対する鍼灸治療の効果

そこで、調子を崩した自律神経を整えるために有効なのが鍼灸治療です!鍼灸治療が自律神経に影響を及ぼすことは沢山の研究で既に明らかにされています。例えば胃の運動や胃酸分泌、 腸の運動、血圧や心拍数などに様々な効果が報告されています。

(参考文献:鍼灸臨床最新科学、メカニズムとエビデンス、医歯薬出版、矢野忠・川喜田健司編集)

妊娠と自律神経の関係

もちろん骨盤内臓器も自律神経の影響を強く受けますから、子宮や卵巣に分布する血管も自律神経によって調節されています。つまり、自律神経が不調を起こすと妊娠に重要なこれらの 臓器の動きや血流、ホルモンの分泌、免疫のバランスに不具合が生じてしまうのです。

それを裏付ける研究結果があります。自律神経の調子を崩すようにストレスを加えたラットの卵巣から分泌されるエストロゲンを測定したところ減少が認められ、ストレスにより卵巣機能が低下することが明らかにされています。

不妊鍼灸の科学的根拠

私たち不妊鍼灸ネットワークは「科学的な根拠」を大切にしています。医療の世界では、治療効果を証明するためには臨床研究を行って、その成績がどのくらいなのか評価する必要があります。不妊に対する鍼灸の効果を研究した論文を文献検索サイトで調べてみると、70 件以上の質の高い論文を見つけることができます。その中で今回のコラムでご紹介したような自律神経を介した子宮・卵巣に対する効果が認められているのです。また鍼灸治療は不安や抑うつ症状を軽減する効果も報告されているんですよ!私たちの治療院のデータでも子宮や卵巣の機能が改善したり、抑うつ症状が軽減しています。

妊活と鍼灸は仲が良い!

①自律神経のバランスを整える事

一つは「自律神経のバランスを整える事」。現代人は交感神経優位になっていることが多く、筋肉や血管は常に緊張を強いられています。体が固い、脚が冷え る、よく眠れない、食欲が無い、動悸がする、など様々な症状は、交感神経が優位なために起こったり、ひどくなったりします。それらの症状は、自律神経のバランスを整える事により、 症状が和らぐ事がしばしばあります。と同時に、毛細血管が拡張し、いろいろな部位の血の巡りが良くなるでしょう。

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