鍼灸で卵巣・子宮の血流を改善しよう!その2

鍼灸

過去3回に渡り妊活に対して鍼灸治療がどのように役に立つのかお話して参りました。今回は鍼治療の具体的な方法についてもう少し詳しく解説して参ります。

大切なのは「リラックス」に繋がること

前回までのコラムで自律神経系(交感神経と副交感神経)の調整機能が卵巣・子宮の血流に大きく影響していることはお分かりいただけたかと思います。自律神経系(特に交感神経)はストレスの影響を受けやすいのです。その反応が血管を収縮させることにより、卵巣・子宮の血流を悪化させ機能低下に繋がると考えられます。ですから、まずお伝えしたいのは「鍼灸治療もストレスになってはいけない」ということです。

妊活のために専門の病院に通院中であれば様々なストレスを抱えていることは容易に想像できます。まずは鍼灸治療がリラックスに繋がることがとても大切です。今から解説する内容は全てその前提の上でのことだとご理解ください。

少しでも効果を高められる方法の模索

それでは、私たちが積み重ねてきたデータを用いて具体的な方法をご説明していきます。
私たちの鍼灸院で妊娠を希望する患者様を診させていただくようになったのは30年以上前に遡ります。妊娠しやすい体づくりをコツコツとお手伝いしていた際、ドクターと一緒に共同研究するチャンスをいただきました。その結果が新聞に掲載され注目を集めるきっかけとなったのが2001年12月です。(図1

今までのやり方でも効果が認められていましたが、残念ながら長期間鍼灸治療を継続しても妊娠に至らない場合もあり、同じ治療方法を繰り返すだけでなく少しでも効果を高められる方法がないか模索していました。そんな時に出会ったのが仙骨部への鍼刺激(中りょう穴刺鍼)です。

この方法は私の母校である明治国際医療大学の泌尿器科グループが過活動膀胱(※1-3)や間質性膀胱炎、また慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)(※4)図2)に対して行っている手技です。

膀胱や子宮・卵巣は全て骨盤内の臓器であり、位置も近く、泌尿器科と婦人科の疾患は密接な関係にあります。
このことから私たちは、泌尿器科疾患に対して著明な効果を認めている治療法を妊活の鍼灸に応用してみようと考えました。

応用してみたところ治療効果はすぐに現れました。妊活歴が5年以上かつ体外受精を5回以上かつ鍼灸治療を1年以上継続しても妊娠に至らなかった人18名に対して“中りょう穴刺鍼”を併用したところ、併用治療開始後6ヶ月以内で7人(38.9%)が妊娠に至るという、短期間で高い妊娠率が得られたのです。

※ちなみに、対象者18人のうち、鍼灸治療を2年以上継続していた人は12名。その12名の中からは6人、つまり50%が妊娠に至るという高い率でした。

効果が明らかになった仙骨部へのアプローチ

私たちは、新聞に掲載された研究を代表として「鍼灸治療は子宮内の着床環境になんらかの影響を与えている」と考えていましたので、この新しい治療法もおそらく子宮周囲の循環、特に動脈血流に影響していると考え、新たにドクターと共同研究を行いました。そして、その効果を検証し2006年の日本生殖医学会にて発表いたしました。その検証方法は、次のとおりです。

 

 

  • 過去に2回胚移植を行ったものの妊娠していない患者9名を対象とする

  • 初回の鍼治療を行う前に「子宮動脈の血管抵抗値(RI値)」を測定、その後、“中りょう穴刺鍼”だけの鍼治療を平均8回行い、その後再びRI値を測定

 

その結果、約9割の人の子宮動脈のRI値が下がったのです。RI値とは血管抵抗値(血流の流れ難さの指標)ですから、RI値が有意に下がったということは鍼治療によって血液が流れやすくなったと考えられます。(図3) このことから、“中りょう穴刺鍼”が子宮動脈の血流改善に関与したことが明らかとなったのです。

注:この治療法は骨盤の仙骨部の靭帯に鍼を刺入して細かく振動させる特殊な治療法です。同じ場所に鍼を刺せば同じ効果が得られるというものではありません。不妊鍼灸ネットワークに所属している正会員の治療院では同じように治療が行えるように研修を積んでおります。

子宮の血流が悪いと考えられる場合(子宮内膜が厚くなりにくかったり、着床しづらいなど)、膀胱や直腸などの骨盤内周囲の血流が悪いと考えられる場合(頻尿、尿意切迫感、内痔があるなど)、また、定期的に鍼治療を継続していても妊娠に至らないという場合に、私たちは、この“中りょう穴刺鍼”を行っています。

次回も鍼治療の具体的な方法やその作用についてお話して参ります。
どうぞお楽しみに。


参考文献

1)過活動膀胱に対する鍼治療の有用性に関する検討
北小路博司、日泌尿会誌、86、1514−1519、1999

2)覚醒化ラットの膀胱機能に対する仙骨部鍼刺激の効果
杉本佳史、明治鍼灸医学、41、29−39、2007

3)酢酸誘発頻尿モデルラットに対する仙骨部鍼刺激の頻尿抑制効果
日野こころ、明治国際医療大学誌2号、25−32、2009

4)Effects of acupuncture for chronic pelvic pain syndrome with intrapelvic venous congestion: Preliminary results
HISASHI HONJO、International Journal of Urology、11、607–612、2004

プロフィール

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木津正義(きづまさよし)
木津正義(きづまさよし)

明生鍼灸院 副院長
不妊鍼灸ネットワーク(http://www.kodakara.org/) 学術部 部長

略歴
1997年 明治鍼灸大学 鍼灸学部 卒業
明治鍼灸大学附属病院 卒後研修生として主に内科学教室にて研修
2000年 旭川リハビリテーション病院に勤務
2002年 明生鍼灸院 勤務 現在に至る

学会活動
全日本鍼灸学会 会員(認定鍼灸師、広報部員)
日本プライマリ・ケア連合学会 会員
日本生殖医学会 会員

専門分野
婦人科疾患 不妊症 不育症 周産期のマイナートラブル