鍼灸で卵巣・子宮の血流を改善しよう!

鍼灸

第2回では、鍼灸による自律神経への作用を説明しました。今回は特に自律神経と血流、そしてそれを改善するための鍼灸の方法をお話します。

血管には栄養を届ける大切な役割がある

想像してみてください。60兆個の細胞全てに栄養を十分に行き渡らせることを。
血管は総延長10万キロメートルの長さで細胞すべてに栄養を届けています。しかし細胞には、栄養を沢山必要とするもの(新陳代謝が盛んであったり、細胞分裂を活発に行なったりしている)もあれば、自らが細々と働くだけの栄養さえあれば良いものまでいろいろです。そして、ヒトを含めたあらゆる生物は、種の保存と繁栄をもっとも大切な使命としてプログラムされていますので、当然、生殖器系には多くの養分が必要ということになります。

血管系は通常、胎児の頃に道筋が出来て成長期にそれらが伸び、思春期にはほぼ完成します。そこから大きく変わることはありません。しかし例外が一つあります。それは子宮です。
子宮の血管は、毎周期ごとに伸長と破綻を繰り返す特殊な組織です。たった2週間の間に血管が1センチも伸びるのです。それを毎月繰り返すからには、その場所に極めて多くの養分や血液が必要とされます。

もう一つ、卵巣を考えてみましょう。卵巣表面は、実はびっしりと血管に覆われています。それは卵子の成長、卵胞の成熟に膨大な栄養が必要だからです。また排卵のたびに起こる卵巣表面の損傷を修復するためにも、極めて多くの養分を必要とします。一度に沢山の子供を産むラットなどは、卵巣への血流量を自在に変化させていることが知られています。つまり必要なときには血管を拡張させ、卵巣に大量の血液が流れこむように出来ているのです。

これらのことから、子宮と卵巣に多くの養分や血液が必要だということがおわかりいただけると思います。

自律神経と血管の関係

急激に大きなストレスがかかると心臓がドキドキしたり、顔が青白くなったり、手足が冷たくなったり震えたり。これは誰しも経験することですし、たいていすぐさま現れます。これは自律神経と血管の関係によるものです。
血管は血液を隅々まで行き渡らせる”輸送管”の役割を担っていますが、実はそれ自体が「収縮と弛緩」を行っています。少し専門的な話になりますが、特に中小動脈におけるトーヌス(血液を輸送するための緊張状態)という状態が大切な役割を担っています。それを作り出しているのが血管を構成する数種の細胞や組織であり、中でも「血管平滑筋」は自律神経による影響を大きく受けています。つまり、もしそこに過緊張状態が起これば、血管は収縮し、その先の組織に血流や栄養不足を起こすというわけです。
ですから、鍼灸が正しく有効に作用するなら、血管は拡張するはずですね。

卵巣や子宮と冷えの関係

よく、冷え性だと妊娠しにくいと言いますが、確かに交感神経が過剰に優位だと、血管が収縮しやすく手足が冷たくなりやすいと言えます。しかし手足やお腹の表面が冷たいことと、子宮や卵巣の冷えや血流不足はイコールではありません。

深部体温は常にホメオスタシス(恒常性)で37度程度に保たれています。例えば子宮のすぐ前には膀胱がありますが、尿が冷たい人などいないでしょう。また卵巣はお腹の表面からから深さ約8センチにあり、それを外部から温めることは容易ではないかわりに、外気の影響を受けにくいと言えます。更に女性の体は思春期を過ぎると、皮下脂肪を貯めこみます。それが断熱材の役割を果たし、生殖器系が外気温の影響を更に受けにくくします。お腹の表面が冷たいからといっても、熱湯の入ったポットの表面が冷たいように、断熱が機能すると表面は熱くならないのです。

このように卵巣や子宮は、奥深くで大切に守られているのです。従って正しくは「手足やお腹の表面が冷えているから子宮や卵巣が冷えている」のではなく、「手足の冷えを引き起こす血管の収縮が、子宮や卵巣の血管でも同様に起こる可能性もある」という解釈が正しいと思われます。つまり冷えはあくまでひとつの目安です。また冷えを感じることで不快を感じ、それがさらに交感神経を優位にしてトーヌスを上げてしまう可能性があります。ちなみに男性の睾丸は正反対です。温めてはいけないので外に突出しています。それでも血流は保たれます。これらは哺乳類の進化の過程で、そのような形態を取りました。

自律神経への働きかけ

では子宮や卵巣に分布する血流を増やすためには、どのように自律神経に働きかければ良いのでしょうか。
大きく2つの方法があります。ひとつは全身的な方法、もう一つは局所的な方法です。

●全身的な方法
心身をリラックス(副交感神経が優位)させることにより末梢の血液循環を改善する方法です。これについては、鍼灸にはいろいろな考え方があり、どれが最も良いとは言えません。要は施術を受けた方が体感して頂けたらと思います。

●局所的な方法
卵巣や子宮の血流を更に確実に良くするための具体的な方法として、局所的な方法をご紹介します。体表から8センチの深さを温めることは困難ですが、局所的な血流を増加させる方法はあります。現在すでにいくつかの手技手法が確立しています。

例)

  1. ラットをつかった実験で卵巣動脈の拡張が確認された「下腿パルス」
  2. 体外授精における排卵誘発同条件下での採卵数の増加を確認した「陰部神経施鍼」
  3. 子宮動脈の抵抗値の減少(つまり子宮への血流量が増える)を証明した「中髎穴施鍼」

などです。

これらはいずれも機器の使用や、特殊な鍼の手技が必須であり、研修や学会などできちんと習得しないと行うことは出来ません。現在科学的根拠を持つこれらの方法は、妊活のための鍼灸に必須と言えるでしょう。卵巣や子宮の血流増加は体感できませんので、確実に有効な手法で施術してもらう必要があります。

私達不妊鍼灸ネットワークでは、根本からどのような方法がもっとも効果的かを議論しています。鍼の深さや手技、機器の使い方から始まり、新たな機器の導入効果や有効な経穴の検証に至ります。こうして私たちは、薬剤の目的とは異なる角度(局所血流改善)から研究し、妊娠しやすい体作りを目指しています。そしてその成果を日本中に広めています。

第4回では、上に書いた3つの局所的手法を更に詳しくお話しします。

プロフィール

メンバー 中村一徳(なかむらかずのり) の写真
Real name: 
中村一徳(なかむらかずのり)
中村一徳(なかむらかずのり)

京都なかむら第二針療所 滋賀草津栗東鍼灸院 総院長
一般社団法人JISRAM(不妊鍼灸ネットワーク:http://www.kodakara.org/)会長

略歴
1986年 明治東洋医学院鍼灸科 卒業
卒後、鍼灸、漢方の施術所などに4年半勤務。
1990年 なかむら第二針療所開設 現在に至る
この間、開業鍼灸師として、京都統合医療センター鍼灸科部長、産婦人科鍼灸外来を
共に6年間。
また、(公社)京都府鍼灸師会学術部長等理事10年間。
(公社)日本鍼灸師会臨床研修会講師5年間。それぞれを経る。
いくつかの医療機関(産婦人科、歯科など)とも提携している。

学会活動
全日本鍼灸学会 会員
日本統合医療学会 会員

講演活動
全国での講演会数は40回以上。うち婦人科関連が約30回を占める。

専門分野
婦人科疾患 不妊症 不育症 他