鍼灸で卵巣・子宮の血流を改善しよう!その3

鍼灸

前回のコラムでは、鍼灸を受ける際にリラックスしたほうが良いということ。それから効果を担保するために、治療法はきちんと根拠のある方法を取らなければならないという事。主にこの2点をお話しました。

今回も視点は同じなのですが、前回が子宮に対する効果を説明しているのに対して今回は卵巣に対する効果を説明します。

卵子も栄養補給をしている

その前に、卵子について少しお話します。
卵子は約120日(もっと長期であるとの説もある)かけて排卵の準備をしていくのですが、その際に徐々に体積を増しつつ、栄養補給をしています。
ということは、卵子の質を少しでも良くするためには、当然の事ながら卵巣の血流が少しでも良くなれば、良い結果に結びつきやすくなります。

卵子には、主に二つの栄養補給の仕方があり、「ピノサイトーシス」と「ギャップジャンクション」と呼ばれています。

ピノサイトーシスとは
ピノサイトーシスは多くの細胞が備えている方法で、飲作用と言われています。
卵巣に分布する微小血管から漏出した血漿成分を、卵子の表面がくぼんでそこに取り込み、卵子内部で分解し栄養とする方法です。

ギャップジャンクションとは
もう一つは、卵子と接触している顆粒膜細胞との間での栄養のやり取りです。両者の細胞の接着(細胞接合と言います)はギャップジャンクションという形態を採っていて、分子量千以下の物質を能動輸送します。ブドウ糖やアミノ酸などの分子量は千以下ですので、こういったものが効率よく供給されているようです。

これらのどちらに対しても、卵巣への血流改善が大きく影響すると考えられます。卵子への栄養供給が、実際にどれほどの効果を及ぼすか、今後の検証結果が待たれます。

さて、体外受精の経験のある方はわかると思いますが、精子と受精させても胚盤胞に進まず、卵割がすぐに停止してしまう場合が多々あります。これは、一つは卵子の栄養不足も原因であろうと推測されます。もちろん、卵割を制御する染色体に異常があれば停止しますが、そればかりでは無いようです。卵子内のミクロ的な観察は難しいとしても、胚盤胞に到達する率が有意に上昇している事は私達も後方視的に観察を行い、その十分な有意差を確認しました。

しかし問題は、前にも述べたように「鍼灸が良い」のではなく「正しい方法を用いた鍼灸が効果を及ぼす」わけで、その正しい理解を、鍼灸師も一般の方にも期待しています。

血流改善に有効な刺激とは

卵巣への血流量の変化を、ラットを使って証明した実験があります。

ラットの様々な部位に鍼を刺入し電気刺激を与えたところ、刺激部位、刺激の強さ、頻度で卵巣血流量の効果に差が生じました。
もっとも有効であった場所は、下肢(足関節内側付近と大腿二頭筋付近、つまり足首付近と腿の裏側についている筋肉付近です。)と腹壁でした。この二つへの鍼通電刺激が一定の強さと頻度で行われた時に、卵巣の血流量が増すことが証明されたのです。

この作用機序は「体性自律神経反射」というシステムで説明されます。皮膚上のポイントに刺激を与えると、その皮膚に分布している皮神経が入る脊髄分節が卵巣に分布している神経と同じレベルの脊髄分節である場合、その刺激が脊髄の中で信号を伝達して影響を及ぼし合うというものです。

少しややこしいでしょうか。
例えるならば、急性虫垂炎の時の痛みがその場所から少し離れて、おへその横辺りが痛むのと原理は似ています(こちらは内臓体壁反射といいます)。
急性虫垂炎のような場合は、すぐに医師の診察を受け服薬(もしくは手術)が必要ですが、慢性化した機能不全で迅速な処置を必要としない場合、この反射を利用し、ゆっくりと機能回復を図る事が可能なのです。

交感神経ブロックと副交感神経への刺激の結果は?

​さて、卵巣には交感神経と副交感神経が分布しています。先ほど述べた実験前に交感神経をブロック(刺激伝達を遮断)すると、卵巣への血流量はブロックしていない場合に比べて飛躍的に向上しました。そこで私たちは、”星状神経節”という喉の交感神経節にレーザーを照射して、薬剤による交感神経ブロックに似た状態を作り出してから鍼治療を行い、それを約3ヶ月間定期的に反復することを試みました。
結果、胚盤胞にまで卵割が進む割合が有意に増えている事を確認したのです。

このことから、やはり卵巣への血流量増加が卵子に栄養を与え、結果として胚盤胞に到達するようになると考えています。この星状神経節へのレーザーは、もともとは薬剤による注射で行っていたのですが、現在は様々な医療機関でもレーザーにとってかわっているところが沢山あります。もちろん、不妊医療施設でも行っているところが幾つもありますが、それと鍼灸を合体させると、鍼灸単独以上の効果が表れます。

さてこの星状神経節ブロック(またレーザー照射)を行うと、顔が少し火照ったような感じがして顔の皮膚温が上昇するのですが、同様の部位に鍼をして電気を流すと逆の効果が出現(顔面の皮膚温が低下)しました。つまり交感神経を薬剤やレーザーでブロックすることと、鍼で刺激することは同じ効果を産まなかったのです。

交感神経は血管の収縮に主に働くので、それをブロックすると血管は拡張しやすくなりますが、単なる刺激では効果的ではない、ということになります。

では、副交感神経のほうを刺激してはどうなるか?というと、その効果が不明瞭なのです。つまり副交感神経への刺激を行っても、こと卵巣に限って言えば血流改善の効果が現れないのです。従って、副交感神経を介した治療は現時点では、効果が不明瞭と言わざるを得ません。

また卵巣に分布する陰部神経が叢(そう)を形成している部分が、臀部のやや内側の深くに存在します。ここに長い目の鍼で刺激を与えることにより、同条件下での採卵で、採卵個数が増加したりしています。これ(陰部神経施鍼という)も特殊な手技を必要としますが、この手技を知っている先生が全国的にどんどん増えていますので、鍼灸を受けようと思われる場合は、是非ともひとつの参考にして下さい。


最後によく誤解されている事をはっきりさせたいと思います。

卵巣は腹壁から深さ8センチにあり、表面を多少温めても卵巣動脈の有意な拡張を起こすのは不可能です。少しお腹を温める程度では、リラックス効果以上のものは期待できないでしょう。

今まで、鍼灸が自律神経を介して、どのように卵巣や子宮に影響をおよぼすのか、その方法はどんなものなのかをお話してきました。
次回は、妊活でストレスを浴びたり、うつ傾向に陥ったりした時に、鍼灸がどのように有効に作用するかを、科学的にお話したいと思います。

プロフィール

メンバー 中村一徳(なかむらかずのり) の写真
Real name: 
中村一徳(なかむらかずのり)
中村一徳(なかむらかずのり)

京都なかむら第二針療所 滋賀草津栗東鍼灸院 総院長
不妊鍼灸ネットワーク(http://www.kodakara.org/)会長

略歴
1986年 明治東洋医学院鍼灸科 卒業
卒後、鍼灸、漢方の施術所などに4年半勤務。
1990年 なかむら第二針療所開設 現在に至る
この間、開業鍼灸師として、京都統合医療センター鍼灸科部長、産婦人科鍼灸外来を
共に6年間。
また、(公社)京都府鍼灸師会学術部長等理事10年間。
(公社)日本鍼灸師会臨床研修会講師5年間。それぞれを経る。
いくつかの医療機関(産婦人科、歯科など)とも提携している。

学会活動
全日本鍼灸学会 会員
日本統合医療学会 会員

講演活動
全国での講演会数は40回以上。うち婦人科関連が約30回を占める。

専門分野
婦人科疾患 不妊症 不育症 他